【天井クレーン製造・その2】天井クレーンに『血管』を行き渡らせる電気工事士の仕事とは。

【天井クレーン製造・その2】天井クレーンに『血管』を行き渡らせる電気工事士の仕事とは。

「天井クレーンに関わる仕事」を紹介していく、お仕事紹介シリーズ。今までに、設計、製造、メンテナンスといろんな仕事を取り上げてきましたが、今回は製造にまつわる電気の話。最終的に天井クレーンが動作するためには、電気を通すための電気配線が必要です。「電気配線」って言っても線をつないでいくだけでしょ?なんて思ってしまうのは大間違い。熟練の職人技を必要とする、天井クレーン製造における電気工事士の仕事とはどんなものか。普段は電気設計を担当する寺戸さんに、製造に関わる電気配線の需要性について聞きました。

寺戸元信|技術部 電気設計
工業高校の機械科を卒業後、愛和産業に入社。入社後8年間メンテナンスとして経験を積んだのち、電気設計に異動。現在は、天井クレーンの制御設計を専門とする傍ら、製造現場に出て電気配線作業のサポートもこなし、製品に対する知識と経験を深めている。

【基礎知識編】天井クレーンの製造に関わる電気工事士って、どんな仕事なんですか?

――寺戸さんは普段、電気設計を担当していると聞きました。電気設計と、製造現場の電気工事士は違う仕事なんですか?

寺戸 電気設計の仕事は、天井クレーンの動作をコントロールする制御盤をつくることです。「どんな回路の構成にするか」という設計図を描くこと。それを元にパートナーと協力して、電気回路を搭載した制御盤をつくること。この2つが大きな仕事です。そして、電気工事士はその後の工程を担当します。制御盤があるだけでは天井クレーンは動きませんから、制御盤からモーターなど複数の機器に電線をつなぐ必要があります。例えるなら、手足(モーター)にエネルギー(電気)を送り込む血管をつくって、全身に行き渡らせる仕事です。

――すごくシンプルに言うと、「電気の配線をつなぐ職人」ということでしょうか。

寺戸 そうですね。もう少し専門的に言うなら「天井クレーンの機内配線」という仕事内容です。一方に制御盤があり、もう一方に鉄骨で構成された天井クレーンと、内部に搭載されたモーターなどの電動機器があります。この2つをつなぐ電線を「どこに通すか」という経路を考えること。電線が剥き出しだと危ないので、電線管(配管)をつくってクレーンに取り付け、その中に電線を通すこと。大きくはこの2つです。電線管をつくる作業が重要なので、「配管の施工」という意味合いも強い仕事です。

――ひと口に「天井クレーンをつくる」と言っても、鉄骨を組んで形をつくる職人と、電気配線をする職人と、専門領域が分かれているんですね。

寺戸 例えるなら、家を建てるのと同じです。最初に大工が柱や梁をつくって家を組み上げる。その後に、電気工事士が家の中に電線をつないでいく。天井クレーンも全く同じです。鉄骨を組み上げて構造をつくる職人がいて、その中に電線を通す職人がいる。まったく別の技術が必要です。

――なるほど、天井クレーンっていろんな専門領域の職人の合作なんですね。

寺戸 その通りです。私のような設計の人間は、いわば建築士でしょうか。その他にも、いろんな領域の専門家の技術があって初めて、天井クレーンができあがります。

――最低限、必要な資格ってあるんですか?

寺戸 「電気工事士」と表現していますが、実は電気的な知識より配管技術の方が重要です。電線管をどこに通すかを構想し、自在に曲げて、施工していく技術ですね。ただ、最低限「第二種電気工事士」の資格があれば仕事が覚えやすいかもしれないです。

例えば、定格荷重が20トンの天井クレーンとか、運ぶ物が大きいほど必要な電気の量って増えるんです。そのため、「20トンを運ぶのに必要な電流」に対してどれだけの太さの電線が必要か、などの基礎知識は必要です。もちろん、難易度の高いケースであれば設計からの細かい指示があります。ただ、当社の標準仕様の製品では電線の指定までしていません。多くの場合、電線の選別は現場の職人に一任しているために、「第二種電気工事士」レベルの知識は習得する必要があります。

【これが大事1】配線がシンプルで美しいこと。

――配線を考えていく上で、大事なことって何でしょう?

寺戸 家の例えで話しましょうか。家って実は、壁を一枚剥がすと中に電線がぐちゃぐちゃに通っていることが多いです。どの電線がどこにつながっているのか、一見しただけでは殆ど分かりません。でも、家の場合はそれでもいいんです。第一に、外から見えないのできれいですし、普段の生活の邪魔にもなりません。第二に、それできちんとつながっている訳だから、問題がありません。

――天井クレーンは、「ぐちゃぐちゃ」だと駄目なんですね。

寺戸 天井クレーンの場合、配線が外から丸見えなんです。例えば、家の中で配線が丸見えだった場合、どうでしょう?「ぐちゃぐちゃ」だと、家の中の至る所を配線が通っているから邪魔でしょうがない。見えるところに配線しなきゃいけないなら、見た目はきれいに、安全に、普段の生活の邪魔にならないように、掃除がしやすいようにと、相当な工夫が必要ですよね。天井クレーンがまさにこれで、「ここに電線を通すと何かの邪魔になる」ということを考えた上で配線を組んでいかないといけない。

――「配線が邪魔」になるって、どんなケースがありますか?

寺戸 小さなクレーンでも制御が多ければその分、あちこちに配線が必要になる。その際、できるだけクレーンの構造にピッタリ添うように電線管を配置する必要があります。もし天井クレーンの一部分に、「電線を通すため」だけの理由で突起物ができたりすると、普段の作業の邪魔になります。点検作業をするにも、突起物を避けながら作業しないといけない。天井クレーンが現場に配置された際に、どんな状況が生まれるかをあらかじめ想定して、配線を考えることが必須です。

――どこで、どんな使い方をするか想像しないといけないんですね。

寺戸 それに加えて、天井クレーンを設置する際の作業も想定する必要があります。例えば、天井クレーンを天井付近に据え付ける際には、また別のクレーンを現地に持って行って持ち上げます。その際は鉄骨をワイヤーで締めあげるので、その部分に電線管が通っていると作業の際につぶれてしまう危険性がある。

――どんな状況が起こり得るかは、経験で学んでいくしかない。

寺戸 そうです。現場で積み上げていくノウハウがたくさんある仕事だと思います。

【これが大事2】パイプ曲げの技術で美しい電線管をつくる。

――その他にも、重要な技術ってあるんですか?

寺戸 一番重要なのは、電線管を美しく曲げる技術です。電線管の太さ、つまり「直径が何ミリのパイプには何本の電線が入る」といったことは全て、職人の頭の中にあります。太いパイプを選べば電線管が少なくて済むから、見た目はスッキリする。でも、パイプ曲げ加工は難しくなる。

こうした点を考え、どんなパイプを何本使うか、どんな角度の曲げ加工を施すか、経験から積み上げたカン・コツで取捨選択し形にする。このノウハウがもっとも大切です。

――電線管を曲げるのは手作業なんですか?

寺戸 完全に手作業です。これには、「パイプベンダー」や「ハイヒッキー」という工具を使います。手の力でググッと曲げるもの、油圧で曲げるもの、種類はいろいろですが、一番大事な「曲げ加減」は職人の感覚ひとつに左右される世界です。

――きれいに曲げ加工ができると、その分、天井クレーンもきれいな仕上がりになる。

寺戸 その通りですね。天井クレーンの構造にピッタリ添った電線管ができると本当にきれいです。技術不足の職人の仕事はすぐに分かります。曲げの部分が上手くいってなかったり。そもそも鋼製のパイプではなくて、樹脂製のジャバラの菅を使っているとか。ひと目で職人の技量が分かるので、面白いです。

――見る人が見れば、すぐに分かるんですか?

寺戸 いい仕事はすぐに分かります。「なんであんなところが出っ張っているのか」という不自然さが無い。「スマートに見える」とでも言うんでしょうか。

【仕事の喜び】現場にドンと乗せた時に、姿が美しいこと。

――どんなことを喜びにする仕事ですか?

寺戸 同じことになりますが、仕上がりの見た目がきれいであることです。それは、電線の配管ルートが自然であることや、曲げ加工がなめらかであることが大きく関係します。

――きれいであること=技術が高いことなんですね。

寺戸 電線の配管という領域になると、職人の技量に左右される部分がどうしても大きいです。電線管をどのように沿わせるか、どんな長さの電線が適切なのか、職人の経験でしか判断できない部分だからです。

自分は設計を担当していますが、電気回路の設計って目には見えない部分なので、羨ましいと思うこともあります。自分の技量が製品の仕上がりに直結する仕事なので。

――お客様からの評価も高いですか?

寺戸 レベルの高い仕事をすれば、お客様の評価も高いです。現地に天井クレーンを乗せた時に「配管がきれいだね」と言っていただくことも多いです。それだけではなく、いい仕事をすれば愛和産業への信頼にもつながります。2台目の天井クレーンを任せてくれた時など、「前回のようなものをつくってくれれば、好きにやって構わない」と、私たちに全幅の信頼を置いてくれるお客様もいます。やはり「いい仕事」というのは、いろんなところに「いい波及効果」を生み出すのだと思います。

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